- 書き写しって本当に文章力がアップするの?
- 書き写しするときに注意することは?
- どんな文章を書き写せばいいの?
今回は、こんな疑問に答える記事を書きました。
名文模写(書き写し・筆写)が文章力の向上に直接効果があるという科学的な根拠は、ざっと探したところ見当たりませんでしたが、僕個人の体験を言わせていただくと、文章の書き写しは確かに効果的だと思います(いまでも大した文章ではありませんが、昔はもっとヒドかったんです……)。
※多感覚学習の効果自体は、ある程度実証されているもよう。
たまに耳にする「効果がなかった」という声も、詳しく確認してみるとやり方が間違っているだけのように感じました。
というわけで、この記事では、
- 書き写しは文章力向上にどんな効果があるのか
- 文章を書き写す際のコツ
- おすすめのお手本(無料で手に入るもの)
こういった情報をまとめています。
正しいやり方でコツコツと書き写しを続けていけば、それは確かな力となり、あなたの文章へと如実にあらわれていきますよ。
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名文模写が文章力アップに効果的な理由
インプットの質が上がる
アウトプットというものは、インプットしたものの中からしか生まれません。
よって、アウトプットの質を高めるには、まずインプットの質を高めることが重要となります。
書き写しは文字通り「書く」行為ではありますが、実は「読む」行為の延長でもあります。
読書力は観察力と理解力からなりますが、書き写しはその両方を鍛えることが可能です。
いわゆる「熟読」よりも、自分の手を動かしながら読む模写のほうが、さらに深く文章を読み込むことができるのです。
文章の構造が理解できる
自分で文章を書く、つまり書き手目線になることで、読むだけではわからない視点で文章をとらえることができます。
文章全体の構成だけでなく、各段落や一文ごとの情報描写の順番を観察することで、破綻しない文章、説得力のある文章、より感情に訴えかける文章といったものを論理的に理解可能です。
表現のストックが増える
比喩やことわざの引用などは、書き手の個性やクセが出やすいもの。
文章の書き写しをしていると、自分の頭からでは生まれてこないような表現やたとえと出会うことがあります。
そういった文章を自分の手で書いてみることで、脳に新しい回路ができていくような感覚を味わえます。
プロの作家も模写を推奨している
書籍やネット、講演・講座などで様々な小説家やコラムニストがそれぞれの文章上達法を紹介しています。
その中でも多いのが「文章を多く読むこと」と「沢山の文章を書くこと」の2つ。
この両者を効果的に行えるのが模写(書き写し)です。
具体的に模写をおすすめしている作家も多いようですね。
第167回:初野晴さんその3「模写で学んだのはあの人の作品」 - 作家の読書道 | WEB本の雑誌
文章を書き写すコツ
ただ「書き写すだけ」はNG
「書き写しは効果がない」と口にする人の大半が、機械的にひたすら写すだけというケースが多いようです。
これでは模写のメリットを活かすことはできません。
学校の授業などで、黒板の内容をただ機械的にノートに書き写していても学習効果がほとんどないのと一緒ですね。
コピーとトレス(トレーシング)は別物です。
- この表現は他の文(文章全体含む)にどのように影響しているか?
- なぜ他の表現ではダメなのか?
- 省略した描写・情報は何か?
- 書き手の個性(クセ)はどういったところにあるか?
こういったことをあれこれと考えながら、一字一句噛みしめるように書き写すことで、はじめて模写の効果が発揮されるのです。
質の高い文章を選ぶ
悪文を書き写してしまうと、そのクセが感染ってしまう恐れがあります。
あえて悪文を筆写しながら、自分で推敲を加えていくテクニックもありますが、まずは素直に名文を書き写す練習からはじめるべきです。
自分のレベルに合ったお手本を選ぶ
書き手の目線に立ってあれこれと思考することが、何よりも大切です。
よって、使われている表現や語彙の大半がわからないような文章は、書き写してもあまり効果がありません。
小学生に天声人語は無理ゲーですし、高齢者に世界系ラノベは(一部を除いて)まったく響かないでしょう。
あえてレベルの高い文章や、馴染みのない表現に触れることで文章力を鍛える方法もありますが、無理をせず、少し上くらいのレベルから着実にものにしていきましょう。
同じジャンルのお手本を選ぶ
文章のレベルだけでなく、ジャンルも自分が書きたいものと合わせるべきです。
コラムならコラム、小説なら小説のジャンルでお手本となる文章を探しましょう。
合わせるべきはあくまで文章自体のジャンル(コラム、小説、論文など)であり、具体的な内容のジャンルは違ってもかまいません。
たとえば、映画のライターを目指しているのなら、同じ映画ライターの文章だけでなく、書籍や料理といった他ジャンルのライターが書いた文章も模写してみるといいですね。
あえて知識が浅い(無知な)ジャンルのコラムや情報記事などを書き写すと、素人でも理解できる文章の書き方が身につきますよ。
模写する前にしっかりと読み込む
書き手は自分の各文章の内容を理解したうえで書いています。当然ですよね。
つまり、文章の内容自体をしっかりと把握していなければ、書き手目線で書き写すことができないというわけです。
すぐにペンを動かす前に、まずはしっかりと手本となる文章を読み込んで、わからない単語などはあらかじめ調べておくようにしましょう。
文章の構成を意識するためにも、事前の下読みは必須です。
書き写しながら音読する
英語学習法などでも取り入れられている音読筆写ですが、日本語の文章上達にも役立つのをご存知でしたか?
人は黙って文章を読んでいるときも、頭の中で音読しているといいます。
文章を書いているときも無言で音読していることが多いのですが、これをしっかりと口に出すことで、文章独特のリズムなどが理解しやすくなります。
手・口・耳といった複数器官を同時に使うことで知覚能力を鍛える効果もあるようです。
複数のお手本を模写する
あまり特定の文章や書き手に偏って書き写しを行っていると、自分の文体(書き癖)がそちらに引っ張られすぎてしまいます。
よって、様々な文体の書き手を適度に織り交ぜながら、それぞれを個性を比較しつつ書き写しを行うのがおすすめです。
もちろん同じ文章を何度も模写するのも、また違った良い学習効果があるので、横軸(バリエーション)と縦軸(掘り下げ)をバランス良く行うのがベストですね。
自分で書き直してみる(要約・推敲)
書き写しに慣れてきたり、飽きてしまったりしたら、お手本の文章に自分なりに手を加えてみるのもおすすめです。
文字数を制限して文章をさらに短く要約してみたり、他の文体で書き直してみたり、あえて書かれなかった別の視点をピックアップしてみるなど、いろいろとやり方は考えられます。
「自分だったらどう書くか?」と考えてみるのも効果的です。
自作を◯◯風に書き直してみる
上記とは逆に、自分が過去に書いた文章をお手本にした書き手になったつもりで書き直してみるというのも一つの手です。
あえて別の人間になって自分の文章を見つめ直すことで、気づかなった書き癖が見えてきます。
よく推敲のときに「読者目線で見直す」と言いますが、なかなか切り替えが難しいですよね。
その点、「別の書き手目線で見直す」というのは、お手本となる作家が入れば比較的スムーズに行えます。
書き写し練習の直後に、自分が書いた文章を手直ししてみるというのをセットで行うといいでしょう。
質問:キーボード入力でも効果があるの?
前述したように、書き写しは「書く」というよりも「読む(読み解く)」行為をさらに深めるための作業です。
よって、手書きでもキーボード入力でも、どちらでもOKです。
ただし、キーボード入力は手書きよりも書きなぐって(書き捨てて)しまう傾向が強いので、注意が必要です。
「文章を書いている」という意識を強くもって、一文字一文字に集中してタイピングするように心がけましょう。
おすすめの手本になる文章
新聞の社説・コラム:簡潔にわかりやすくまとめる技術
書き写しの定番といえば、やっぱりコレですよね。
限られた文字数でまとめる技術が身につくだけでなく、時事ネタの情報収集にもなり一石二鳥です。
基本的には自宅で購読している新聞の社説・コラムを毎日書き写すというのが王道です。
日経新聞の「春秋」ならネットで無料で読めるので、新聞をとっていない人はこちらを書き写すというのもアリです。
※以前は、朝日の天声人語もネットで無料購読(当日分のみ)できたのですが、現在はすべて有料会員向けに……残念。
ブログ・ネットニュース:ジャンルに合わせた文章宝探し
無料の文章見本は、ネットでいくらでも手に入ります。
お気に入りのライターを探して署名記事やブログを漁るもよし、一つのメディアに絞って毎日コツコツと文章を書き写していくのもよし。
翻訳系ニュース記事のお手本なら、WIRED.jpあたりが冒頭のまとめが短くまとまっており、書き写しのお手本に最適です。
知り合いのコピーライターはほぼ日刊イトイ新聞の「今日のダーリン」を毎日書き写しているのだとか。
ネットにはネット独特の文体のようなものもあるので、ゆるめのブログなどもチェックしてみるのがおすすめです。
もちろん玉石混淆ではありますが、たまにびっくりするほど秀逸な文章にであることがあるのがネットの醍醐味ですね。
青空文庫:時代を超えた名文に触れる
無料で読める名文といえば、青空文庫は欠かせません。
まだまだいらっしゃいますが、名文家としてよく名前が挙がる作家はこんな感じでしょうか。
現代の文体とはもちろん違いますが、時代を超越した感性や表現の奥行きのようなものを味わえます。文章書きの登竜門として、未読の方も模写をきっかけにどうぞ。
Kindleサンプル:現代の名文家に学ぶ
現代の作家を探すなら、電子書籍のサンプル版がおすすめです。
優れた文章は書き出しからすでに名文ですからね。
こちらも数えあげたらきりがないので、気になったものはどんどんサンプルをダウンロードしてみましょう。
動画配信サイト:文章と映像の違いを体験する
少し上級者向けですが、映画やTVドラマなどを見ながら台詞を書き起こしていくのも、よい訓練になります。
小説と脚本(台本)では文章のタイプが異なるので、そのまま応用することはできませんが、台詞ですべて説明してしまう癖がある人は端的な台詞を書く練習になります。
余裕が出てきたら状況描写なども加えていくと、より文章力がアップすること間違いなしです。
参考書籍
超入門 名作書き写し文章術 1日10分続けるだけ
自身でも文章スクールを運営している作家・高橋フミアキ氏による文章指南本。
書き写しを始めるきっかけにいいかも。
名文どろぼう
「編集手帳」筆者・竹内政明氏が自身の「ネタ帳」を紹介した本。
「こんなネタ帳作ってみたいなぁ」と思わせてくれます。
天声人語書き写しノート
切り抜いた新聞を貼り付ける欄と、同じフォーマットの原稿用紙がセットになった書き写し専用ノート。
普通にノート代わりに使ってもいいですね。
夏目漱石ほか文豪名著 書き写しノート
夏目漱石などの作品から名シーンをピックアップし、書き写すための専用ノート。
手本となる文字が綺麗なので、美文字練習帳としても使えます。
出口汪の思わず書き写したくなる美しい日本語練習帳
現代文講師として有名な出口汪氏が、川端康成や太宰治などの作品から14点を厳選した書き写しノート。
国語力をアップさせたい学生などにいいかも。
もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら
いわゆる「パスティーシュ(文体模写)」をテーマにしたオモシロ本。
あくまでエンタメとしてパスティーシュの面白さを味わうのが正しい読み方かも?
まとめ
今回の記事のおさらいです。
- 名文模写(書き写し)は文章力向上に効果がある。
- ただ機械的に書き写すだけではダメ。頭をあれこれと働かせながら一字一句集中して筆写していく。
- 手本は無料でも手に入る。自分に合った文章見本を選ぼう。
いくつかおすすめの手本を紹介しましたが、人にすすめられたものよりも、自分がお手本にしたい(真似したい)と感じた文章のほうがモチベーションも上がりますし、結果として文章力向上も早くなると思います。
僕が習慣として行っているのは、お気に入りの文章を書き写して、スクラップ(コレクション)するという方法です。
勉強という意識が強いと億劫になってしまいがちですが、名文コレクションを趣味の一つにすれば、退屈せずに続けられるはず。ぜひお試しあれ。